放送における制御の進化
SDIの時代において、ブロードキャストコントローラーは非常にシンプルで、操作のフロントエンドとしての役割を果たしていました。これは、オペレーターがルーティング、ラベル設定、タリー管理などを行う際に使用する、ハードウェアパネルやソフトウェアインターフェースを指します。
SDI時代の特徴
- SDIルーターを介した信号ルーティング
- ハード/ソフトUIによるラベル、UMD、タリー管理
- ジョイスティックやボタンでの直感的操作

自動化と機能の拡張
次第に、ブロードキャストコントローラーはオートメーションやモニタリング機能も備えるようになり、以下のような高度な処理も可能になりました。
- 将来的な操作のスケジューリング
- SD→HD変換時の自動アップコンバーター挿入
- オンプレミス設備の効率化
IP化とコントローラーの再定義
SDIからIPへの移行に伴い、SDIルーターは複数のIPスイッチやメディアエンドポイント(送信者/受信者)に置き換わりました。この新たな環境において、必要なのはリアルタイムのIPネットワークとメディアデバイスの両方を制御可能なSDNコントローラーです。
SDNコントローラーの特徴
- IPネットワーク上での高速かつ確実な接続制御
- SDIルーター互換のノースバウンドインターフェース
- 複雑なトポロジーに対する柔軟性
ただし、ネットワーク制御のみを行うものや、メディア制御には対応しないタイプも存在し、ベンダーによって機能が異なる点に注意が必要です。

SDN/BCコントローラーの混合と混乱
IP環境の普及により、一部のベンダーはSDN専用のコントローラーを開発する一方で、従来のブロードキャストコントローラーにSDN機能を追加した製品も登場しています。これにより、「どの製品が何を制御しているのか」が分かりにくくなっています。
- これらは「(SDN)オーケストレーター」と呼ばれることもあり、用語の混乱を招いています
- さらに、オールIP施設に求められる柔軟性や即応性(アジリティ)を考慮すると、
SDN+BCコントローラーの組み合わせだけでは十分でないという声も多くなってきています
オーケストレーターという新たな視点
こうした背景から、すべてを統合し、技術的・運用的サービスやビジネスワークフローをエンドツーエンドで管理する上位レイヤーが必要とされています。これが「オーケストレーションレイヤー」です。
オーケストレーターの役割
- ネットワークとメディア制御の枠を超えた総合管理
- 番組制作、イベント、リソースのライフサイクル全体に対応
- 各種システムをまたいでサービスレベルの一貫性を保つ
用語の混乱:「オーケストレーション」は人によって意味が違う
「オーケストレーションできますか?」という質問に対して、すべてのベンダーが「はい」と答えるかもしれませんが、その意味するところは大きく異なる場合があります。
- ネットワーク構成の自動化=オーケストレーション
- 番組リソース管理やSLA対応まで含めて=オーケストレーション
というように、目的や背景によって解釈が異なるため、定義のすり合わせが重要になります。
今回のまとめ
- SDI時代のコントローラーは操作端末としての役割が中心だった
- IP時代には、ネットワークとメディア制御を一体化するSDNコントローラーが登場
- 一部製品がSDN/BCコントローラーの境界を曖昧にし、「(SDN)オーケストレーター」という言葉が混乱を招いている
- 放送局が求めるのは、制御だけでなく、運用・ビジネスの観点も含めた全体統合
- 真の「オーケストレーション」とは何か?という問いから、次のステップが始まる
結論と次回予告
結論として、オーケストレーションは単なる信号切り替え以上のものです。
SDN/ブロードキャストコントローラーの枠を超え、全体統合型のオーケストレーションプラットフォームの必要性が高まっています。
次回(第2回)は、その出発点である「オンボーディング」について詳しく見ていきましょう。
ネットワーク・デバイスの検出、初期設定、安全な登録とは何かを解説します。
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