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Lawo mc²36 mkII コンソールを搭載した『tonzauber』レコーディング中継車
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オーストリアでクラシック音楽の超高品質レコーディングを行うスタジオを探せば、必ず『tonzauber』にたどりつきますが、それには正当な理由があります。「音の魔法」という意味を持つこのスタジオは、クラシックだけでなくジャズ、メタルなど様々なジャンルのパフォーマーのレコーディングに、優れた音質と専門的なエンジニアリングサービスを提供することで高い評価を受けているのです。
現在tonzauberは、最新のLAWO mc²36 mkIIミキシングデスクを装備した新しいロケ用移動レコーディングトラックを導入して、その能力を拡張しています。1998年にこのスタジオを設立したジョージ・バディセック氏は、これは彼の夢を実現したものだと言います。
「中継車を制作することは、私の長年の願いでした」
バディセック氏は言います。
「コロナによってもたらされた状況により、その必要性は大きく高まりました。コロナが猛威を振るったとき、突然多くのライブ配信の注文が入り、短いリードタイムで実装する必要がありました。これは非常に手の込んだモバイルプロダクションにも影響し、すぐにミックスを行う必要があったのです」
「必要な機材をすべて梱包して、それを運搬して、また梱包を解いて、機材のセットアップを繰り返し、どこかの部屋や物置、野外イベントではテントの中で座ってミックスしなければならないなんて….そんなの勘弁してくれ!と思うようになったのです」
バディセック氏が、自分専用の中継車を作ろうと思ったのは、トラックのサイズやオプションの選択肢が限られていたことも要因の一つでした。
「私がオーストリアで携わっている音楽制作では、TV用中継車がどんどん小型化されている傾向にあることに気付きました。というのも5~6台以上のカメラを搭載する予算がなく、スプリンター(メルセデス)であれば4KもHDも可能だからです。この場合の問題は、サウンドコントロールルームが組み込まれていないことです。少なくとも、オーケストラをミックスしたいような部屋ではありません!」
これらすべてを念頭に置いて、2021年初頭にバディセック氏は彼の願いを実現することを決意しました。
「技術はすでにあって、私は中継車を構築するだけでよかったのですから」
トレーラーからボックスバンまでさまざまな可能性を検討した結果、8月にトラックをベースにした中継車の詳細計画が開始され、2021年10月に社内のtonzauberチームが、中継車の建設経験豊富なテレビサービスプロバイダーのユーロテレビと協力して建設をスタート。新しい移動スタジオは、2022年春にサービスを開始しました。
バディセック氏は、将来のIP技術に期待しているそうです。
「私たちの車両はすべてRAVENNA/AES67に準拠しており、これまでの放送部門では得られなかった柔軟性を実現しています。最小のステージボックスはわずか1RUで、8つのマイク入力と4つのライン出力を備え、PoEで電源供給されています。これにより分散使用に適しており、アナログのマルチコアを置き換えることができます」
「これらのステージボックスと、クロックデカップリングを含むMADIとDante信号を受けるための DirectOut社 prodigy.mp などの追加デバイスは、ほとんど必要ありません」
Lawoや他社のミキシング・コンソールでの長年の経験を生かして、バディセック氏はLawo mc²36 MkII オールインワン・プロダクション・コンソールを選定しました。A__UHDコアにより、48kHzと96kHzの両方に対応する25のプロセシングチャンネルを提供し、大規模なオーケストラ作品のマスタリングも可能にします。このオールインワンミキサーはST2110、AES67、RAVENNA、Ember+にネイティブ対応しています。最大864チャンネルのI/O容量とローカルI/Oを備えたmc²36 mkII は、3つのリダンダントIPネットワーク・インターフェイスがあり、16のLawo品質のマイク/ライン入力、16のライン出力、8つのAES3入力/出力、8つのGPIOコネクタ、SFP MADIポートなどの幅広い接続性を提供します。
モニタリング環境に対する要求は高く、非常に精巧な音響処理を施した上部構造をトラックのシャーシに搭載し、外殻と内部が互いに分離され、10cmの厚い断熱材が取り付けられました。イマーシブ オーディオ向けに設計されたこのトラックは、Dolby Atmosのミキシングに対応し、7.1.4 サウンドシステムが装備されています。
2022年5月、新型 tonzauber音声中継車は、ウィーン交響楽団による野外コンサート『Fest der Freude(喜びの祭典)』でデビューし、バディセック氏はオーストリアの公共放送局 ORFの生放送をプロデュースしました。サー・サイモン・ラトル指揮者率いるロンドン交響楽団、ブルックナー管弦楽団リンツによる『Gmunden Open Air 』、バーデン市立劇場のサマー・アリーナ・イベントでオーストリアオペレッタのテレビ放送など、有名なオーケストラによるコンサートの放送やレコーディングが続きました。
「これまでで最大かつ最も精巧な作品は、ブルゲンラント州ザンクト・マルガレーテンにある『Oper im Steinbruch(採石場のオペラ)』で行われたジュゼッペ・ヴェルディ作曲のオペラ『ナブッコ(Nabucco)』でした」
「その制作では128チャンネルをミックスしなければならなかったので、すべてを把握し、何も考えずにボタンやフェーダーにすばやくアクセスできるように、コンソールを完璧にセットアップしなければなりませんでした。それがあれほどの複雑なライブコンサートミックスを扱う、唯一の方法なのです。 Lawoは私に大きなアドバンテージを与えてくれます。なぜなら、すべてにおいて非常に簡単にラベルを付けることがでるし、色分けされたコントロールにナビゲーションされ、新しい mc²36 mkII ロゴやシンボルとも連動することができるからです。これらすべてによって概観を劇的に向上させてくれます」
この新しいtonzauber音声中継車は、クラシック音楽だけのものではありません。
「おもにクラシックのレコーディングのためにこの車両を作りましたが、だからといって他の人に使用させないというわけではありません。最近ではバッケンで開催されている世界最高峰のメタルフェス『Wacken Open Air』でミキシングを担当した同僚は、彼自身のハードウェアに彼が準備したプラグインを持ってきてくれましたが、私はそれを数分でシステムに統合しました。これは、私の音声中継車の柔軟性を表しています。オーディオ的には実質的に何の制約もありません」
最後に、バディセック氏は次のようにまとめてくれました。
「音に関して、Lawoに非常に満足しています。なぜならコンソールには固有のサウンドがなく、私の操作に反応するだけだからです。大きな音の色付けはしたくありませんし、マイクの前で作られた音、そしてマイクから出てくる音は、最終的に私の仕様と同じになるはずです。Lawoならそれが実現できるのです」
(2022.11.17)