去る5月16日、東京、大井町にあるきゅりあん大ホールにて、d&b audiotechnik社から新たに発表されたラインアレイ製品であるCL-Seriesの第1弾モデルとなる、CCL Systemの試聴イベントが、PAエンジニアや音響設備業者などの専門家の方々を招いて開催された。

イベントは2部仕立てで、第1部はCCL Systemのコンセプトや特徴についての解説があった。CCL Systemは、オーディオ周波数帯域全体にわたって指向性をコントロールすることで、音の明瞭度を下げる原因となる壁からの反射や、不必要なエリアへの音漏れの抑制を目標に開発された。また、音響システム全体のブロードバンド指向性制御を達成した先行モデル、SL-Series(GSL、KSL、XSL)よりもコンパクト化することも目標となった。そのために新たに採用されたのが、パッシブ・カーディオイド・デザインである。
音響システムにおいては、ターゲットとなるサービスエリアに対してオーディオ周波数帯域全体をバランス良く、明瞭に再生することが重要だが、比較的指向性の強い中~高音域はともかく、音が拡散しやすい低音域の明瞭度を確保するのは難しかった。この問題は、個々のキャビネットに拡散した低音域をキャンセルする専用ドライバーを内蔵したSL-Seriesで解決済みだったが、これらはアクティブ・システムだった為、2chのアンプを必要としていた。
それに対して、同様のカーディオイド・デザインを受け継いだCL-SeriesのラインアレイであるCCL8とCCL12は、2ウェイのネットワーク回路を内蔵したパッシブ・システムで、1ユニットのサイズがよりコンパクトになっている。これらに合わせて使用するサブ・ウーファーCCL-SUBにもカーディオイド・デザインが採用されているのは言うまでもない。そして、CL-Seriesのスピーカーを40D、D40、D80、D90、D20、30Dといった、DSPによるイコライザーやディレイ機能も内蔵した専用のアンプを組み合わせることで、1chアンプでのドライブが可能となり、全体として非常にコンパクトかつシンプルなシステムを構築することができる。
続く第2部では、様々なジャンルやサウンドの音源を用いてCCL Systemの試聴が行われた。まず、ステージ上にCL-Seriesと、従来のコンパクトなモデルであるY-Seriesをそれぞれ3台ずつスタックしたラインアレイを並べて、ケブ・モーの「For What Is Worth」を音源にして比較した。低域の指向性、とりわけアレイの裏側への低域の回り込みは、CL-Seriesのほうが圧倒的に少なく、フロントの再生音の明瞭度にも明らかな差が感じられた。


次に、メイン・システムとしてホールの客席に向けて設置された、サブ・ウーファーCCL-SUBを含むCL-Seriesの試聴が行われた。最初はサブ・ウーファーを使用しないモノラルの設定で、アコースティック楽器のアンサンブルによるレベッカ・ピジョンの「Grandmother」と、ザ・フェアフィールド・フォーのドゥーワップ「These Bones」が再生されたが、アコースティック楽器と女声ボーカルの繊細さや、厚みのある男声コーラスの質感が上手く再生されていた。
続いてシステムをステレオに切り換え、サブ・ウーファーはオフのまま、クラシックのオーケストラ曲であるグリークの「Peer Gynt」から「Solveig’s Cradle Song」を試聴した。生音での鑑賞が基本のクラシック音楽だが、バイオリンや女声の高音域も耳障りになることなく、滑らかで聴きやすい音質が印象的だった。同じ設定でジェニファー・ウォーンズの「Somewhere, Somebody」も再生されたが、女声と男声のボーカルにエレクトリック・ベースとパーカッションのみの伴奏というシンプルなアンサンブルが、厚みのある充実した音質で再生されていた。
最後に、サブ・ウーファーをオンにしたフル・システムによるイーグルスの「Fast Company」とセグリダード・ソシアルのレゲエ「Wish You Were Here」が再生された。メインのボーカルがファルセット、ベースが倍音の多いスラッピング、ホーン・セクションの追加という、様々な要素が混ざり合ったロック・アンサンブルの解像感の高さには、カーディオイド・デザインの特徴が良く表れていた。また、レゲエにおいては重低音を強調したエレクトリック・ベースが特徴的だが、CCL Systemではこの重低音でさえも明瞭度を失わず、ベースのアタックの空気感や音程感がボヤけることなく再生されていた。
もうひとつ重要なのは、低音の指向性がコントロールされることで、ステージの中音がすっきりして、演奏者がアンサンブル全体や自分の音をモニターする際に、大きなメリットとなるという点である。CCL Systemは、ステージ上でのモニター環境の改善も含めた、音響システム全体に革命をもたらすだろう。
text : Akira Sakamoto
photo : io

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